俵万智

『源氏物語』には、七九五首の和歌が登場する。ストーリーの中心をなす恋愛の場面ではもちろんのこと、晴れの席で詠みあうこともあれば、独り言をつぶやくように歌が詠まれることもある。  ここぞ、というときの和歌には、登場人物の思いが凝縮しているわけで、それが恋のゆくえを、大きく左右したりもする。心の通いあいから、すれ違い、かけひきにいたるまで、たった三十一文字の言葉にこめられたものは、かぎりなく豊潤で奥深い。